はじめに|信託報酬0%なら、今すぐ乗り換えるべき?

「全世界株式に投資できて、信託報酬は年0%」。そんな商品が発表されたら、これまで積み立ててきた投資信託より有利に見えるかもしれません。

両学長の10月14日のYouTubeライブでは、「コストゼロは勘違い」「ゼロカンはおすすめなのか」「オルカンとの違い5選」、そして話題のウェブサイト「80億分の1」がタイトルのテーマになりました。

ここでいう「ゼロカン」は、SBIアセットマネジメントが設定する予定の「SBI・ゼロ・オールカントリー・インデックス・ファンド」の愛称です。「オルカン」は一般に「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」を指します。

最初に押さえたい結論は、信託報酬0%と、運用中に生じる費用が全部0円であることは違う、という点です。そして、手数料の数字だけで乗り換えを決めることも適切ではありません。

今回は動画タイトルで示された二つのテーマを入口に、SBI証券の正式発表、オルカンの開示資料、「80億分の1」公式サイトを照合し、初心者にも分かるよう整理します。

なお、記事執筆時点では動画の日本語字幕・自動字幕は公開されていませんでした。そのため本記事はライブでの個々の発言を逐語的に再現したものではなく、動画タイトルで確認できる論点について公式情報から独自に構成した解説記事です。講演者が述べたと確認できない数値や断定を「学長の発言」として扱わないようにしています。

ゼロカンは何が新しいのか

SBI証券は2026年10月1日、こどもNISA向けの新しい全世界株式インデックスファンドとして「ゼロカン」を発表しました。信託報酬は税込年率0.00%とされています。

ファンドの設定日は11月17日を予定しています。ただし、ゼロカンの積立購入が始まるのは、こどもNISAの取扱開始日に合わせると説明されています。

したがって、10月14日時点で「ゼロカンを通常のNISA口座ですぐに買える」という理解は正しくありません。制度の取扱い、口座開設条件、正式な購入開始時期は、申込みの際に最新の公式案内を確認する必要があります。

投資対象は、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース)への連動を目指す全世界の株式です。

これはオルカンと同じ種類の株価指数で、米国だけでなく日本やその他の先進国、新興国も含みます。

ただし、「同じ指数に連動する」と「実際の運用成績が必ず完全一致する」は異なります。保有銘柄や売買時期、現金比率、諸費用、運用体制によって小さな差が生まれます。

また、全世界株式だから元本保証という意味でもありません。世界の株価が大きく下がれば、どちらのファンドも値下がりする可能性があります。

違い1|信託報酬はゼロカン0%、オルカン0.05775%以内

最も分かりやすい違いが信託報酬です。

ゼロカンの信託報酬は年率0.00%。一方、eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)の信託報酬は年率0.05775%以内(税込)です。オルカンは純資産総額に応じた段階的な料率を採用しているため、実際の適用率は条件によって異なります。

仮に評価額100万円を1年間保有したと考え、オルカンの年率0.05775%を単純に掛けると、年間の信託報酬相当額は約578円です。

評価額500万円なら同じ単純計算で約2,888円、1,000万円なら約5,775円になります。実際には毎日の純資産額や料率によって金額が変わるため、この計算は比較の目安にすぎません。

こうした差は長期間では無視できない場合があります。ただし、目先の数百円から数千円の違いを理由に、これまでの投資計画や口座管理を急いで変える必要があるかは別の話です。

比較の前提として、ゼロカンを購入できるのは誰なのか、その他の費用があるのかを確認しましょう。

違い2|信託報酬0%でも「実質コスト0円」ではない

今回のタイトルの「コストゼロは勘違い」は、ここが重要です。

信託報酬とは、投資信託の運用管理などの対価として、信託財産から日々差し引かれる費用です。

しかし、投資信託に関係する費用は信託報酬だけではありません。

SBI証券の公式説明でも、信託報酬が年0%のゼロカンについて、監査費用、株式等の売買委託手数料、外国での保管費用、税金などが別途発生する場合があると明記されています。

投資先を入れ替える際に生じる取引費用や、資産を保管するための費用などは、信託報酬と別にファンドの資産から間接的に支払われることがあります。

つまり「信託報酬0%」は確かな商品設計上の特徴ですが、「保有している間、投資家が間接的に負担するコストまで完全ゼロ」という意味ではありません。

実際にどれだけの費用が生じたのかを把握するためには、運用が始まったあとの運用報告書に掲載される費用明細や総経費率などの資料を見る必要があります。

設定前の新商品では、そのファンド自身の運用実績に基づく総経費率はまだ存在しません。「ゼロだから実質コストも最安になる」と決めつけないことが大切です。

違い3|買える口座と金融機関が大きく違う

ゼロカンは、こどもNISA専用の投資信託です。

SBI証券の案内では、ゼロカンのこどもNISAでの購入はSBI証券のみとされています。

成人が自分の一般的なNISA口座や課税口座からゼロカンを自由に買えるわけではありません。

一方、オルカンは複数の金融機関で販売されており、成人向けのNISA口座や課税口座などで購入できる商品です。実際の取扱い状況は証券会社や銀行によって異なります。

この違いは手数料率以上に重要かもしれません。

現在オルカンを積み立てている大人が「ゼロカンの方が安いから今日から乗り換えよう」と思っても、そもそも同じ口座でゼロカンを購入できません。

子どものために投資する場合でも、こどもNISAの対象年齢、年間投資上限、払出しルール、口座管理者の条件などを確認してから商品を選ぶ必要があります。

また、金融機関を選ぶ際は、ファンドの信託報酬だけでなく、サービスの使いやすさ、管理のしやすさ、口座に必要な手続きも考慮するとよいでしょう。

違い4|新しいゼロカンと、運用実績のあるオルカン

ファンドの「これまでの運用実績」があるかどうかも違いです。

オルカンは2018年から運用されてきた商品で、基準価額の推移や純資産総額、運用報告書などを確認できます。

一方、ゼロカンの設定予定日は2026年11月17日です。10月14日時点では、この商品そのものの過去の運用成績を比較することはできません。

新しく設定されるファンドには、コストや仕組みが魅力的な商品もありますが、実際の指数連動の精度、現金管理、売買コスト、ファンド規模の推移などは運用開始後に確認することになります。

同じ指数に連動する商品でも、ファンドごとに運用資産の構成や管理方法が異なります。

どの程度指数からずれているかを見るトラッキングエラーや、運用報告書に記載された費用などを確認できれば、広告上の信託報酬以外の違いも比較しやすくなります。

「新しい商品だから不安」と決めつける必要はありませんが、「新しい商品で信託報酬が低いから最も優れている」と決めつけることもできません。

違い5|18歳以降の保有と積立方法が異なる

SBI証券の発表では、ゼロカンは、こどもNISAで購入していた分について、成人後も信託報酬0%のまま継続保有できる設計だとされています。

ここは魅力的に見える部分です。

ただし、18歳になったあとに、同じゼロカンを新規購入・積立し続けられるという意味ではありません。保有済み残高と、新たな積立の扱いは分けて確認する必要があります。

SBIグループは別の商品として「SBI・オールカントリー・インデックス・ファンド」(愛称:SBIオールカントリー)も発表しています。

こちらは同じMSCIの全世界株式指数への連動を目指し、信託報酬は税込年率0.055%です。成人向けNISAや課税口座など広い口座で購入できる商品として設定されます。

この「SBIオールカントリー」と、既存の「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」は名前が似ていますが、別のファンドです。

ゼロカン、SBIオールカントリー、eMAXIS Slimのオルカンという三つを区別しておくと、今後の商品選びで混乱しにくくなります。

3つの全世界株式ファンドを比べてみよう

ここまでの内容を、購入条件を中心に表で整理します。

比較項目ゼロカンSBIオールカントリーeMAXIS Slim オルカン
信託報酬(税込・年率)0.00%0.055%0.05775%以内
主な参照指数MSCI ACWIMSCI ACWIMSCI ACWI
口座の条件こどもNISA専用成人NISA・課税口座等成人NISA・課税口座等
設定・運用開始2026年11月17日予定2026年11月17日予定2018年から運用
その他の運用費用発生し得る発生し得る発生し得る
運用実績設定前設定前過去データあり

ゼロカンの実際の購入開始はこどもNISAの取扱開始に準ずるため、設定日と積立開始日を同一視しないようにしましょう。

この表から分かるのは、三つとも目指す株式指数は似ていますが、口座条件と設定時期が違うということです。

「新しいものを選んだ方がお得」という単純な話ではありません。

家族の資産形成で大切なのは、誰の口座で、何年かけて、何の目的で投資するのかという計画です。

すでにオルカンを持っている人は乗り換えるべき?

大人が自分のNISA口座でオルカンを積み立てている場合、ゼロカンはこどもNISA専用という条件から、単純な乗り換え先にはなりません。

SBIオールカントリーとの比較でも、信託報酬の差は年率でわずかな割合です。

その差が積み重なることは事実ですが、これまで保有してきた商品を売却し、別の商品を買い直すことには、手間や売買タイミングのずれなども生じます。

NISAの場合、売却すると非課税保有限度額の枠が再利用できる仕組みがありますが、再利用できる時期や年間投資枠の制約もあるため、単純に同額を直ちに入れ直せるとは限りません。

また、課税口座で利益が出ている投資信託を売却すると、売却益へ課税される場合があります。

「現在の投資方針が変わったのか」「新商品に明確なメリットがあるのか」「変更に必要な手間と税金はどうか」を確認してから考える方が合理的です。

信託報酬がほんの少し安いという情報だけで、長く続けてきた積立を慌てて止める必要はありません。

こどもNISAを考える家庭は何を優先すればよい?

こどもの将来のために積み立てたいと考える家庭では、信託報酬0%は検討材料になります。

ただし、子どもの教育費や進学費用には、使う時期が比較的はっきりしているお金もあります。

大学入学が数年後に迫っている資金と、10年以上先に使うかもしれない資金では、運用に回せるリスクが違います。

たとえ全世界へ分散した投資信託でも、数年の間に大幅に値下がりする可能性があります。

まず家計の生活防衛資金を確保し、入学金や授業料など時期の決まった支出は別に用意できているか確認しましょう。

そのうえで余裕資金を長期で運用するのであれば、商品にかかる費用、投資対象、購入条件、成人後の扱いを比べることに意味があります。

子どものための投資であっても、親の生活費や借入返済を圧迫する積立額では継続が難しくなります。

「手数料の安さ」を何より優先しない理由

投資信託を選ぶとき、低コストであることは重要です。信託報酬は毎年のように資産から差し引かれる費用であり、長期保有ほどその違いが効いてきます。

ただし、投資先そのものが大きく違えば、手数料の差より株価の変動が圧倒的に大きくなることがあります。

全世界株式ファンドと預金は、目的もリスクも違います。全世界株式と債券を比べる場合も同様です。

自分に必要なのは価格変動を抑えることなのか、長い時間をかけて資産成長を狙うことなのか、数年後の確実な支出に備えることなのかを先に考えます。

そのあとで、同じ目的に合う複数の商品を比較して、費用を確認します。

つまり、最初に決めるのは資産運用の目的、次に投資対象やリスク、最後に同種の商品同士の運用費用です。

「信託報酬ゼロ」という魅力的な数字だけで投資を決めない習慣が大切です。

話題のサイト「80億分の1」とは?

ライブタイトルの後半に出てくる「80億分の1」は、世界のどこかに赤ちゃんとして生まれ、ひとつの人生をたどるシミュレーション型のブラウザゲームです。

公式サイトは「1 in 8 Billion」という名前で公開され、日本語表示にも対応しています。

141か国の統計データを使い、どこの国に生まれるか、家庭環境や教育、仕事、健康などの条件によってどのような人生になり得るかを疑似体験できる仕組みです。

公式サイトでは、毎年の出生数に応じて生まれる国を抽選する方法と、現在の人口分布に応じて抽選する方法が用意されています。

実際の統計をもとにしているとはいえ、個人の人生を完全に予測できるものではありません。利用する数値には推計や仮定も含まれています。

また、病気、貧困、戦争、家庭内暴力、若年での死亡など、重い出来事が再現される場合があります。公式サイトは15歳以上向けと案内しています。気分が優れないときや、こうした題材が負担になる場合には無理に体験する必要はありません。

生まれる環境を選べないことから考える「お金の価値」

このサイトが興味深いのは、自分の努力や収入だけでは決められない条件が人生に大きく関わると気付くきっかけになる点です。

生まれた国や家庭、社会制度、教育機会、医療へのアクセスは、人によって大きく異なります。

現在の自分が当たり前だと感じている暮らしも、世界全体では同じ条件ではありません。

「自分は恵まれているから不満を言ってはいけない」という結論へ急ぐ必要はありませんし、貧しい国に生まれた人の努力不足を示すものでもありません。

大切なのは、個人の努力だけでは変えられない状況があり、環境によって選べる道が違うことを理解する姿勢です。

そして、この気付きは資産形成の考え方ともつながります。

自分でコントロールできる部分、たとえば収入を増やす行動、毎月の支出、貯蓄、投資額、リスク管理に目を向けることは重要です。

同時に、人生の幸福を口座残高というひとつの数字だけで測ることにも限界があります。

家族や友人とのつながり、健康、住環境、学ぶ機会、安心して暮らせる社会など、資産額だけでは表せないものがあります。

お金は選択肢を広げる道具ですが、目的そのものではありません。

ゼロカンと「80億分の1」に共通する学び

新しい投資信託と人生シミュレーションゲームは、一見まったく別の話題です。

しかし、どちらも「見えている数字だけで判断しない」という視点でつながります。

ゼロカンでは「信託報酬0%」の表示が目に入りやすいですが、実際の判断にはその他の費用、投資先、購入条件、運用実績などが必要です。

「80億分の1」では、ある国の平均寿命や所得といった数字が登場しますが、その数字だけでひとりの人生の価値を決められるわけではありません。

数字は状況を理解するために役立つ道具であり、判断のすべてではありません。

投資の目的が、将来の生活の安心、家族の教育費、老後の自由などであるなら、費用を抑えることだけでなく、計画を継続できることや、必要なときに適切に使えることも意識したいものです。

今回の話から今日できるチェック

すでにオルカンを保有している場合は、まず自分の購入商品名と信託報酬、保有する口座の種類を確認しましょう。

「ゼロカン」と「SBIオールカントリー」と「eMAXIS Slim オルカン」は別の商品なので、似た商品名を混同しないようにします。

次に、保有中の投資信託の目的が変わっていないか確認します。

いつ使う資金なのか、急な支出へ対応できる現金は別にあるか、値下がりしても積立を続けられるか、という視点です。

子ども向けの資産形成を検討しているなら、こどもNISAの制度内容と、購入を希望する金融機関の最新情報を確認します。商品や制度の開始日を推測して手続きを進めないようにしましょう。

そして時間があるときには、「お金を増やすことが自分の人生でどんな役割を果たすのか」も考えてみてください。

資産が増えた先で実現したいことが分かると、低コストの商品を選ぶことにも、必要なときにお金を使うことにも、より納得感が生まれます。

確認済みQ&A

Q1. ゼロカンは本当にすべての手数料が無料ですか?

いいえ。SBIが公表している信託報酬は年率0.00%ですが、監査費用や売買に伴う費用、外国保管費用、税金などの間接的な費用は発生する場合があります。

そのため「信託報酬ゼロ=実質コスト完全ゼロ」とは言えません。

Q2. ゼロカンとオルカンは投資先が同じですか?

どちらもMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース)への連動を目指します。

ただし、運用管理の仕組みや費用、保有銘柄の比率などの違いにより、実際の運用成績は必ずしも一致しません。

Q3. 大人のNISAでもゼロカンを買えますか?

ゼロカンはこどもNISA専用として発表されています。

大人向けのNISAなどで購入できる別商品として、SBIオールカントリーが用意されます。商品名と購入条件を確認してください。

Q4. オルカンを全部売って新商品へ乗り換えるべきですか?

信託報酬の違いだけで一律には判断できません。

口座条件、課税関係、非課税枠、投資期間、売買時期、新商品の運用実績などを確認します。すでに保有している商品が自分の長期方針に合っているなら、慌てて売る必要はない場合があります。

Q5. 「80億分の1」は投資を学ぶサイトですか?

いいえ。世界各国の統計を利用し、別の国や環境に生まれた場合の人生を疑似体験するブラウザゲームです。

投資商品の評価や資産運用の利回りを教えるサービスではありません。人生や社会環境について考えるきっかけとして楽しむものです。

まとめ|「ゼロ」の魅力と、見えにくい条件をセットで見る

ゼロカンの登場は、全世界株式の長期積立を考える家庭にとって、注目する価値のあるニュースです。

信託報酬0%は確かに目立つ特徴ですが、その他の費用、こどもNISA専用という購入条件、設定前で実績を確認できないこと、成人後の積立条件なども合わせて見る必要があります。

オルカンとの比較で大切なのは、信託報酬の数字だけではなく、自分がその商品を買えるのか、何のために何年持つのか、値下がりへどう備えるのかという点です。

そして「80億分の1」という人生シミュレーションは、資産額や所得などの数字では測り切れない生活の豊かさを考える機会になります。

自分の環境と目的を理解し、必要な費用を見極めながら長く続けること。資産形成でも日々の暮らしでも、その姿勢を大切にしたいものです。

参考情報