転職で年収を上げたいなら、AIだけに任せない方がいい?

求人情報を探すとき、最近はAIによるおすすめ機能が目立つようになりました。希望職種、勤務地、給与の条件を入力すれば、数多くの求人から候補を短時間で探せます。

それなら、転職エージェントの担当者と話す必要はもうないのでしょうか。

2026年10月7日付の日本経済新聞では、人材サービス各社がAI活用を進める一方で、キャリアアドバイザーが介在する転職支援の価値を見直していることが報じられました。パーソルイノベーションも、転職仲介サービスに関する報道掲載を公式に案内しています。

10月19日の学長マガジンチャットでは、このニュースをもとに「転職で年収を上げるには、AIによる求人探しと、人による支援をどう使い分けるか」というテーマが紹介されました。

この記事では、投稿内容をそのまま転載するのではなく、転職市場のデータや実際の準備手順とともに整理します。

先に結論をまとめると、求人を幅広く探す工程ではAI、希望条件を掘り下げたり年収交渉をしたりする工程では人の支援が役立つ場合があります。 どちらか一方が万能という話ではありません。

なぜ年収アップが資産形成につながるのか

資産形成というと、NISA、投資信託、株式投資といった話題に注目しがちです。もちろん支出の管理や長期投資も大切ですが、働いて得る収入を増やすことも家計に大きな影響を与えます。

たとえば同じ生活水準を維持したまま手取り収入が増えれば、生活防衛資金を確保しやすくなり、借入金の返済や将来のための積立にも余裕が生まれます。

一方、転職によって額面年収が上がっても、残業時間や通勤費、住宅手当、福利厚生が変われば、実質的な家計への影響は異なります。数字の大きさだけではなく、手取りと働き方の両方を確かめる必要があります。

ここで大事なのは、現在の職場で仕事の実力を磨くことと、その実力が評価される場所や条件を探すことは、別の取り組みだという点です。

実力がついても、その価値が転職市場に伝わらなければ待遇に結びつかないことがあります。逆に、経験を整理して適切に伝えることで、これまで候補にしていなかった仕事が選択肢になるかもしれません。

2026年の転職市場はどうなっている?

「転職市場は活況」という表現には、確認できるデータの裏づけがあります。

マイナビの「中途採用・転職 総括レポート 2026年版(2025年実績)」によれば、マイナビ転職に掲載された2025年の求人件数は、2023年平均を100とすると162.3に相当しました。2026年に入ってからは、同じ基準で180を超える高水準で推移した時期もあります。

ただし、求人が増えたからといって誰でも簡単に希望年収で転職できるわけではありません。 求人の多い職種や地域、求められる経験は企業ごとに違います。

また、調査ごとに「年収アップした人」の割合が違うことにも注意が必要です。

調査対象・期間主な結果
マイナビの転職動向調査(2025年実績)調査対象の転職者転職後に年収が上がった割合は39.7%
dodaの年収アップ成功者調査2025年10月~2026年3月にdodaエージェントサービスを利用して転職した人年収アップした人は64.1%、その人たちの平均上昇額は約109万円

両者の数字は調査対象や集計方法が異なるため、直接比較して「どちらのサービスの成功率が高い」とは言えません。 dodaの約109万円も、全転職者の平均増加額ではなく、年収が上がった人に限った平均です。

参考資料:マイナビキャリアリサーチLab・中途採用/転職総括レポート / パーソルキャリア・dodaの2026年版調査

このように数字の条件まで読むと、転職を考える際には「市場が好調かどうか」に加えて、自分の職歴がどの求人で評価されるかを確認する必要があると分かります。

AIが得意なのは、求人の候補を素早く広げること

転職活動でAIを活用する最大の利点は、多数の求人や条件を効率よく比較できることです。

職種、勤務地、想定年収、必要資格、働き方などを整理したうえで、公開されている求人情報を比較できます。たとえば「接客業で培った店舗運営・スタッフ教育・売上管理の経験を、どの業種で評価してもらえるか」といった調べ方も可能です。

自分一人では思いつかなかった職種を見つけるきっかけになります。応募書類を準備する際に、強みの言語化や面接で聞かれそうな質問の洗い出しにAIを使うこともできます。

ただし、AIによる提案が常に最新・正確とは限りません。求人の募集終了、条件変更、勤務地、残業代の扱いなどは、求人企業や公式の募集要項で確認してください。

特に、氏名、住所、電話番号、職歴の詳細、勤務先の機密情報を、利用条件を確認しないままAIツールに入力しないことも大切です。

AIは候補を広げ、準備を助ける道具です。採用条件の最終確認まで代わりに保証するものではありません。

年収交渉で人間のキャリアアドバイザーが役立つ理由

10月7日の日本経済新聞の報道では、異業種への転職などで、人が仲介したケースの転職後初年度年収がAIだけの支援より高かったと紹介されました。

関連する記事では、比較条件によって100万~150万円ほどの差があったとされています。ただし、この差をすべての転職者に当てはめることはできません。対象者の経験や職種、転職先、もともとの収入、支援を受けた人の選ばれ方などによって数字は変わります。「人に相談するだけで誰でも150万円上がる」という意味ではありません。

では、アドバイザーはどのような場面で価値を発揮するのでしょうか。

1.本人が気づいていない強みを引き出す

長く同じ職場にいると、自分にとって当たり前の業務を強みと認識していない場合があります。

たとえば接客経験者でも、単なる「接客担当」ではなく、クレーム対応、新人教育、在庫管理、シフト作成、業務改善の経験があるかもしれません。

具体的な仕事の内容や成果を対話で掘り下げることで、異業種でも評価される経験を見つけやすくなります。

2.給与交渉を本人に代わって行う

希望年収が高すぎるのではないかと気後れして、企業に直接伝えられない人もいます。

キャリアアドバイザーが採用企業側の予算や条件を確認し、実績を根拠に交渉してくれる場合があります。

ただし、エージェントによって交渉力には差があります。担当者任せにせず、最低希望年収や譲れない条件は自分でも明確にしておきましょう。

3.思い込みで選択肢を狭めないよう支える

「未経験の業界は無理だろう」「自分の年齢では採用されないはず」といった思い込みが、応募の機会を減らしていることがあります。

過去のデータだけに頼らない提案や、面接での伝え方についての具体的な助言は、経験のある担当者ならではの強みです。

一方、人間のアドバイザーにも得意・不得意や主観があります。複数の情報源を併用し、自分で判断することが大切です。

転職エージェントは「紹介されたら安心」ではない

ここは見落としたくない点です。

一般的な成功報酬型の人材紹介サービスでは、採用する企業側が紹介会社に手数料を支払います。求職者は無料で利用できることが多いものの、紹介会社には成約に向けた事業上の動機もあります。

だからといって、すべてのアドバイザーが強引に転職を勧めるわけではありません。求職者の希望を丁寧に聞き、現在の職場に残る選択肢まで一緒に考えてくれる担当者もいます。

信頼できる担当者かどうかを確かめるには、次の点を見ておきましょう。

  • 応募前に仕事内容、年収の内訳、残業、勤務地、休日を説明してくれるか
  • 希望しない求人への応募を急かさないか
  • 年収の根拠を具体的に示し、条件交渉の進め方を説明してくれるか
  • 企業の良い点だけでなく、注意点や不一致の可能性も伝えるか
  • 担当者を替えてほしい場合に相談できるか

合わない担当者に無理に付き合う必要はありません。複数サービスの比較、公式求人サイトへの直接応募、ハローワーク等も含めて検討できます。

職業紹介のルールや事業者の利用上の注意点は、厚生労働省の職業紹介事業に関する案内も参考になります。

年収を上げたい人が実践したい5つの手順

ステップ1:現職の経験を「成果」で整理する

職歴の年数だけでなく、改善した業務、担当人数、コスト削減、売上への貢献、トラブル対応などを書き出します。

数値で示せない業務も、頻度や役割、工夫した点を具体的に説明できれば強みになります。誇張や根拠のない実績の追加は避けてください。

ステップ2:AIで求人と年収相場を広く調べる

希望職種を一つに絞りすぎず、経験が転用できそうな近い職種も調べます。

AIの提案は候補リストとして活用し、実際の求人票や公的な職業情報で確かめます。AIが示した年収を市場相場として無条件に信用しないようにしましょう。

ステップ3:人に相談して選択肢を検証する

キャリアアドバイザーなどと面談し、AIが示した候補について実際の採用可能性や求められる経験を確認します。

「転職すべきか」「今の職場で昇給交渉すべきか」「資格を取得してから動くべきか」といった複数の選択肢も整理できます。

ステップ4:希望年収を根拠とともに伝える

現在の年収、希望額、最低条件、働き方の希望を整理します。

給与を上げたい理由だけでなく、応募企業にどのような価値を提供できるかを具体的に説明することが、納得できる交渉につながります。

ステップ5:内定後は「年収以外」も比較する

基本給と賞与の内訳、固定残業代、昇給制度、退職金、通勤や在宅勤務の手当、休日、勤務地などを確認しましょう。

たとえ年収が増えても、長時間労働や通勤負担が大きく増えるなら、生活全体として望ましい転職とは限りません。必要な条件を労働条件通知書などで確認してから判断します。

「年収アップ」と「投資」をどう組み合わせる?

転職活動が資産形成につながるのは、給与が増えた先に家計の改善があるからです。

収入が上がった場合でも、すぐに生活費を大きく増やすのではなく、生活防衛資金の確保、金利負担の高い借入金の返済、将来の積立など、自分に必要な優先順位を考えたいものです。

また、転職には試用期間、雇用条件の変更、収入の一時的な減少といったリスクもあります。「投資額を増やしたいから必ず転職する」と決めつけず、現在の仕事を続けながら市場価値を把握するだけでも意味があります。

経験を磨くことと、その経験に見合う待遇の選択肢を知ること。その両方を進めるのが、収入面の資産形成を考えるうえでのポイントです。

よくある質問

AIで求人探しをすれば転職エージェントは不要ですか?

不要とは限りません。希望条件が明確であればAI検索が役立ちますが、異業種への転職、応募の判断、面接対策、条件交渉などでは人の支援が有効な場合があります。両方を使って比較するのが現実的です。

アドバイザーに頼めば必ず年収が上がりますか?

上がる保証はありません。報道で紹介された差は、特定の条件で比較された結果です。年齢、経験、業種、求人状況などで結果は変わります。

転職する気が固まっていなくても相談していいですか?

サービスによって異なりますが、情報収集段階で相談を受け付けるところもあります。相談の目的を伝え、転職の決断を急ぐ必要がないことを確認しましょう。

年収の希望はどう決めればいいですか?

同じ職種・地域・経験年数の募集条件を複数確認し、現職の年収やスキル、最低限必要な生活費などを踏まえて考えるのが基本です。賞与や手当を含む額面年収だけでなく、月給の内訳も確認してください。

まとめ:転職で「自分の価値」を適切に伝えるために

2026年の転職市場では、AIによる求人検索が広がる一方、人が面談や交渉に関わる価値も改めて注目されています。

今回のポイントは、AIと人のどちらが優れているかを決めることではなく、目的に応じて使い分けることです。

AIで候補を効率的に広げ、担当者との対話で自分の強みや希望を整理し、提示された労働条件を最後は自分で判断する。その順番で進めれば、納得できる働き方に近づく可能性があります。

投資商品の値動きを確認するのと同じくらい、自分の経験が社会でどのように評価されるかを知ることにも目を向けたいものです。

転職はゴールではありません。自分に合った働き方と、続けられる収入の土台を作るための選択肢の一つです。


出典・参考資料

関連:転職・年収アップなどを扱った2026年10月19日のライブ解説記事

※本記事はリベシティの投稿と公開資料を手がかりに独自に構成した非公式の解説です。掲載元・人材紹介会社の公式見解を代弁するものではありません。転職の成果や収入増加を保証するものでもありません。